徒然なる生活

読書感想や日常で感じたことの備忘録です。

石田玲子のコトバ ノルウェイの森(村上春樹 講談社文庫)

こんばんは。



今回はノルウェイの森をご紹介します。

1987年に講談社から刊行された書き下ろし作品です。

作者は村上春樹氏。

発行部数は1000万部を超え、日本だけではなく海外でも読まれている物語です。





あらすじ

物語は主人公「僕」が乗っている飛行機が、ハンブルク空港に着陸するシーンから始まります。
飛行機が到着すると、機内にBGMが流れます。曲はビートルズの「ノルウェイの森」です。
ビートルズのメロディーは僕を混乱させます。
乗務員が気分の悪そうな主人公を心配して話しかけると、
「大丈夫です、ありがとう。ちょっと哀しくなっただけだから」と僕は応えます。
その時、僕の頭の中は自分がこれまで失ってきた多くのもののことでいっぱいでした。
失われた時間、死にあるいは去っていった人々、もう戻ることのない想い。
そして、物語は18年前の1969年の秋に巻き戻ります。
もうすぐ20歳になろうとする僕の回想の始まりです。





私が初めてこの作品に触れたのは大学2年の冬だと記憶しています。

20歳になろうとする僕は、大学生活に慢性的な不満を抱えています。
大学闘争をする学生や退屈な講義、学生寮の生活は僕にとって有意義とはいえませんでした。
「大学」や「学生」になじめずに生活をしている中で、僕は個性あふれる様々な人に出会います。
同じ寮に住む先輩の永沢さんは、他人に屈することなく強く生きている人です。彼は人に屈するぐらいなら、ナメクジを3匹飲むことも厭わない、そんな人です。
僕は小さなレストランで緑と出会います。
彼女の男勝りな行動の陰には、繊細な心があります。僕は徐々に緑に魅かれていきます。

今回はその個性的な人たちの中から、一人取り上げてご紹介したいと思います。

レイコさんです。

フルネームは石田玲子。
レイコさんと僕が出逢った場所は京都にある精神病患者の施設です。
僕には直子という恋人がいます。
直子の精神は不安定なため、大学を休学し施設で養生することになりました。
僕が直子に会い京都に赴くと、そこで音楽の先生をしているレイコと出会います。レイコは直子のルームメイトでもあり、施設のスタッフでもあり、患者でもあります。
レイコ自身、精神を病んだ経験があり、施設に入って7年経ちます。
いまでは病状は安定していますが、いつ暴発するかもしれぬ爆弾を抱えて彼女は生きています。

レイコさんと僕がはじめて出逢ったシーンがこちらです。
語り手は僕です。
上巻p193

とても不思議な感じのする女性だった。顔にはずいぶんたくさんしわがあって、それが目につくのだけれども、しかしそのせいで
 老けて見えるというわけではなく、かえって逆に年齢を超越した若々しさのようなものがしわによって強調されていた。そのしわはまるで
 生まれたときからそこにあったんだといわんばかりに彼女の顔によく馴染んでいた。彼女が笑うとしわも一緒に笑い、彼女がむずかしい顔をするとしわも一緒に難しい顔をした。
 笑いもむずかしい顔もしないときはしわはどことなく皮肉っぽくそして暖かく顔いっぱいにちらばっていた。年齢は30代後半で、感じの良いというだけでなく、何かしら
 心魅かれるところのある女性だった。僕は一目で彼女に好感を持った。

レイコさんの魅力が詰まっていると感じます。
れいこさんの生命力というか、活力みたいなものが「しわ」にまで宿っているんだなと。
現実世界にいたら、とても存在感のある、密度が濃い人なのかなと私は想像しました。





1.石田玲子の人柄
レイコさんの人柄がよく出ているシーンがあります。
僕が京都の施設を訪れた夜、直子が急に泣き出します。
直子が落ち着くまで、レイコさんと僕が外で散歩をしながら話しているシーンです。
上巻p236

「僕はさっきなにか間違ったことを言ったりしませんでしたか?」
「何も。大丈夫よ、何も間違っていないから心配しなくてもいいわよ。なんでも正直にいいなさい。
 それがいちばん良いことなのよ。もしそれがお互いをいくらか傷つけることになったとしても、あるいはさっきみたいに誰かの感情をたかぶらせることになったとしても
 長い目でみればそれがいちばんいいやり方なの。

どうすればわからない時に、手段を与えてくれる人は頼もしいですね。
レイコさんのつらい過去を知ると、よりこのセリフに奥深さが加わり説得力があります。

またこんなシーンもあります。
施設内にある鳥小屋を3人で掃除をしているシーンです。
下巻p277

「朝って私いちばん好きよ」と直子は言った。
「何もかも最初からまた新しく始まるみたいでね。だからお昼の時間が   来ると哀しいの。夕方がいちばん嫌。毎日毎日そんな風に思って暮ら  しているの」
「そうしてそう思っているうちにあなたたちも私みたいに年をとるのよ。朝が来て夜が来てなんて思っているうちにね」と楽しそうにレイコさんは言った。」
「すぐよ、そんなの」
「レイコさんは楽しんで年とっているように見えるけれど」と直子が言った。
「年をとるのが楽しいとは思わないけど、今更もう一度若くなりたいとは思わないわね」とレイコさんは言った。
「どうしてですか?」
「面倒臭いからよ。きまってんじゃない」とレイコさんは答えた。

この三人の会話って好きなんです。
みんな正直に話していてそこに陰りがない透き通った会話のリズムが心地よく感じます。
レイコさんは特にあっけらかんとしていて、若かりし時代に戻ることを面倒くさいと一蹴しています。
聞いていて気持ちいいぐらい豪快ですね。

みなさんはレイコさんのコトバから彼女がどんな人柄だと想像するでしょうか?





2.石田玲子にとっての「恋」とは
物語の後半で、僕は緑という女性と恋に落ちます。
しかし、僕は直子のことが気にかかり、緑と正面から向き合えずにいます。
僕はレイコさんに困惑した気持ちを手紙にして送ります。
僕が手紙を出して五日後、レイコさんから返事が来ます。
その内容の一部をご紹介します。
下巻p244-245

私の忠告はとても簡単です。まず第一にみどりさんという人にあなたが強く魅かれるのなら、あなたが彼女と恋に落ちるのは当然のことです。
 それはうまくいくかもしれないし、うまくいかないかもしれない。しかし恋というのはもともとそういうものです。恋に落ちたらそれに身をまかせるのが自然というものでしょう。
 私はそう思います。それも誠実さのひとつのかたちです。

 中略

 私の個人的感情を言えば、緑さんというのはなかなか素敵な女の子のようですね。あなたが彼女に心を魅かれるというのは手紙を読んでいてもよくわかります。
 そして直子に同時に心を魅かれるというのもよくわかります。そんなことは罪でもなんでもありません。このだだっ広い世界にはよくあることです。天気の良い日に美しい湖にボートを
 浮かべて、空もきれいだし湖も美しいと言うのと同じです

私はこの手紙を読んで、女性ってこんな風に考えるのかなと思いました。
男性は論理的で問題を細分化して問題を解決する傾向にあります。
しかしロジックでは解決できない問題もあって、人間関係とか恋愛なんかはその一つだと思います。
浮気とか、交際相手がいるのにほかの人を好きになってしまうとかそんな事象に関して、論理的に考えてしまうと、
どうしても行き詰まってしまう瞬間があり、いつまでも前に進めないでいるのが男性的なのかなと私個人の経験から思います。
レイコさんの言葉の中に、「恋というのはそういうものです」とありますが、もうそういうもんだと割り切って考えるのがよいのかもしれませんね。
まあその割り切りに時間がかかる人がほとんどだと思いますが。





3.石田玲子の人生観
先ほどのレイコさんの手紙には、彼女の人生観も反映しています。

下巻p246

そんな風に悩むのはやめなさい。放っておいても物事は流れるべき方向に流れるし、どれほどベストを尽くしても人は傷つくときは傷つくのです。人生とはそういうものです。
 偉そうなことを言うようですが、あなたもそういう人生のやり方をそろそろ学んでいい頃です。
 あなたはときどき人生を自分のやり方に引っ張りこもうとしすぎます。精神病院に入りたくなかったらもう少し心を開いて人生の流れに身を委ねなさい。
 私のような無力で不完全な女でもときには生きるってなんて素晴らしいんだろうと思うのよ。本当よ、これ!だからあなただってもっともっと幸せになりなさい。
 しあわせになる努力をしなさい。

自己啓発書とかで人生とはみたいなことが紹介されていると、人生とは登山であるとか、人生とはチョコレートの箱であるとか
わかったようになる文句をよく見かけますが、なんか結局は人生には大いなる力みたいなものが働いていて、それをどうしようもできないから流れに身をまかせんしゃいと
考えるのが良いのかなと私個人の見解では思います。
レイコさんの言葉も同じようなことを言っていますね。
特に私が印象的ななのは、「精神病院に入りたくなかったらもう少し心を開いて人生の流れに身を委ねなさい」という言葉。
私も自分のやり方に引き込もうとして、本意ではないけれども結果的に相手を論破していたり、周りの協力を仰ぎたいのにそれが下手だったりうまく世渡りしているとはいえない状況なのですが、
だからこそレイコさん言葉が身に沁みました。
レイコさん自身も精神科にお世話になっている現状を考えるととても深い言葉に感じます。



以上が、レイコさんの紹介です。
物語の登場人物の一人に焦点を当てるのは今回が初めてです。
ノルウェイの森に登場する人々はもちろん個性的なのですが、それとは別に物語の軸と全く関係なく個人が思うままに行動している感じがあって躍動感があります。
物語の一部としてではなく、登場人物の行動の結果が物語をつくっているようなそんな感じがします。
また、こんな風に魅力的な登場人物や物語があったら紹介しようと思うので読んでみてください。


最後までお読みいただきありがとうございました。

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

パイロットフィッシュ 大崎善生 読書録

 こんばんは。

 今回は大崎善生さんのパイロットフィッシュ」について書きたいと思います。

 大崎善生さんといえば11月19日公開の「聖の青春」の原作者です。
 大崎さんは学生時代に将棋会館に出入りしていたのがきっかけで、将棋雑誌の編集に携わることになったそうです。そして、ノンフィクション作家の友人から聖の青春のネタを引き継ぎ、今秋映画化される「聖の青春」を執筆。その後、専業作家となり、今回ご紹介する「パイロットフィッシュ」から小説を執筆するようになったそうです。
 大崎さんの経歴調べると、なかなか変わった経歴の方で面白そうな人ですね。

 今回はそんな大崎さんの「パイロットフィッシュ」の読書録です。

まずはあらすじから
 本の背表紙の紹介文です。

人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない
19年ぶりにかかってきた、かつての恋人からの1本の電話。
彼女との日々が記憶の湖の底から浮かび上がる。
世話になったバーのマスター、かつての上司だった編集長や同僚らの印象的な姿、言葉を交錯させながら、
出会いと別れのせつなさと、人間が生み出す感情の永遠を、透明感あふれる文体で繊細に綴った、
至高のロングセラー青春小説。




 学生時代に1回読んで、今回2度目の読了。

 ジャンルとしては恋愛小説、青春小説ですが、繊細な文章がより登場人物のより深い感情まで入っていく透明感のある純文学のような印象です。

 余談ですが、感情を説明するときの文章ってなにかをメタファーとして捉えたりとか、登場人物の行動から論理的に説明しようとしたりとか...感情事態に形がないだけに、表現するのにたくさん手段があると思います。
 大崎さんの文章は、感情に寄り添いつつ、軽やかな文章が続くのでとても読みやすいです。そして、透明感があります。
 大崎さん自身、「村上春樹」さんから影響を受けたようで、たしかにこのパイロットフィッシュも、村上さんの「風の歌を聴けから」始まる僕とネズミのシリーズの文章に似ている気がしなくもありません。



 あらすじの話に戻りますと、
 主人公の山崎隆二は41歳の文人出版の編集者。文人出版はお堅いお名前ですが、実はエロ本を作っている出版社です。山崎が不遇の学生時代に3年間付き合っていたかつての恋人、川上由希子から19年ぶりの連絡が来ます。
 物語は学生時代の記憶の話と、現実世界のお話が同時進行で続いていきます。





パイロットフィッシュ」とは

 水槽を立ち上げる時、水槽内の水質を正しい方向に導く熱帯魚のことをパイロットフィッシュというそうです。
 水質を正しく導くとは、ろ過バクテリアを素早く繁殖させ、生体の住みやすい水質に変えることらしいのですが、簡単に説明すると、魚にとって初めての水質というのは、生体系として不安定であり、はじめて水槽を作るときは、生態系を作るための熱帯魚を入れて、そのあとに飼育目的の熱帯魚をいれるということらしいのです。
 はじめにいれた生体系を安定させるための魚「パイロットフィッシュ」は生体系をつくったらそのあとは捨てられることもあるそうです。

 そんなパイロットフィッシュに象徴されるような関係が山崎の周辺人物の間に垣間見えます。






記憶の物語

 この作品では「記憶」というのが一つのキーワードになっています。

物語の冒頭に記憶についてのこんな描写があります。

人は、一度巡り合った人と二度と別れることができない。なぜなら人間には記憶という能力があり、
そして否応にも記憶とともに現在を生きているからである。


 物語は学生時代の記憶の話と現在の話の2本仕立てで進んでいきますが、学生時代の記憶が現在に影響を与えているシーンがいくつか出てきます。

 19年ぶりに再会した、山崎と由希子の会話にこんなシーンがあります。

「由希子」
「うん?」
「スパゲティを食べるとき、僕は今でもスプーンの上でクルクルして音をたてないようにしているし、煙草が切れても絶対に灰皿のシケモクは拾 わない。なぜかわかる?」
「うーん」
「それはね、君が嫌がるからだよ」
「私が嫌がる?」
「そう。そうやってね別れて19年たって一度も声さえ聞いたことがなかったのに、僕は今でも確実に影響を受け続けているんだ。
 それもものすごく具体的なことで今でも君は僕の行動を制約している。だから今でも人前ではチューイングガムは噛まない」

 由希子には家庭があり、山崎にも年下の彼女がいる現実の生活があり、山崎が昔の彼女に未練たらたらというわけではありません。

 この本では、記憶のありか見たいな例えとして、湖がよく描写されます。記憶の湖では自分でも覚えもいなかった無数の過去が沈殿していて、突然その記憶が浮かび上がってくる。
 そんなわけで、山崎は自分自身のことを記憶の集合体といいます。

 人間て案外、忘れない動物で、結構どうでもよいことを視覚的に聴覚的に覚えていたり、ふいにフラッシュバックしたりで、それがうれしい時もあれば、うっとうしい時もあるのかなと思います。
 特に、深い感情に結び付いた記憶は、忘れたつもりでも心のフックみたいなものに引っかかっていて、何かの拍子に出てきたりするのかなと思います。
 そのために、無自覚のうちに自分の行動がなにかに制約されているのではないかと不安になることもあります。

 この本の登場人物に、「森本」という山崎の古い友人の酒飲みがいるですが、森本はそんな記憶の湖にダイブしていって、自分を見失っています。


 この本に描かれている記憶というのは、優しいものではなく、記憶の影響によって生じる現実の不具合なんかも描き出しています。もちろん記憶によって人は回想できたり、自分を顧みたりでき、より豊かに厚みのある感情が芽生え、記憶と現実の相互作用により良い効果ももちろんあります。
 この記憶の正と負の二価性はなかなか面白いなと個人的に思いました。



 実はパイロットフィッシュから始まる山崎隆二の物語は続編があります。
アジアンタムブルー
「エンプティースター」

 この二作も、山崎隆二の現実を引き継いで、前作の現実が次作で記憶として語られたりするのですが、
相変わらず面白く読みやすいのでぜひおすすめです。

11/19公開の「聖の青春」もたのしみですね。

お読みいただきありがとうございました。
ではでは

パイロットフィッシュ (角川文庫)

パイロットフィッシュ (角川文庫)

聖の青春 (講談社文庫)

聖の青春 (講談社文庫)

何者 見てきました

 

こんばんは


朝井リョウさん原作の「何者」見てきました。



10月15日の公開初日に見ようと思ったのですが、いろいろ億劫になってしまって...




重い腰をあげて、見に行くかあ~という感覚で見てきました。




いろいろ億劫になってしまったというこの気持ちこそ、
私が感じる朝井リョウ作品に対するイメージそのものです。


「桐島部活やめるってよ」の原作者として有名になった朝井リョウさん。
平成生まれの作家として初めて直木賞をとったのが今回映画化された「何者」という作品です。



「桐島」も「何者」もたしか私が大学2年ぐらいのときに読んだのですが、最初の読了感はじめじめとしていて、なんか嫌な作品だなあという感覚。
しかし、なぜか嫌いとかそういう感情とは結び付かなくて、もやもやとした、いやな感覚が残ったのが記憶に残っています。


そんな読書経験があってから、約2年越しぐらいに「何者」という作品が映画化されると聞いて、
「めちゃ見に行きたい!」と思うと同時に、
活字での作品の記憶が戻ってきて、なんか躊躇いというか億劫な気持ちになりました。



これが冒頭に書いた億劫だなという感覚です。



そんな話は置いといて、


映画の内容です。

ネタバレたぶんそんなないです。

以下、映画.comの引用です。

演劇サークルで脚本を書き、人を分析することが得意な主人公、拓人。
 何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく、光太郎。
 光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。
 「意識高い系」だが、なかなか結果が出せない理香。
 就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら焦りを隠せない隆良。
 22歳大学生の5人はそれぞれの思いや悩みをSNSに吐き出しながら就活に励むが、人間関係は徐々に変化していく。


ちょうど私の世代が主人公の物語で、ほんとにうまい具合に私ぐらいの世代が感じる周囲の人間の嫌な場面や、
私自身の嫌なところや、弱いところを描き出した嫌な作品です。


拓人を演じた俳優の佐藤健さんが取材で、初めて台本を読んだとき、どんだけ性格のわるい人間が書いたのだろうと思ったそうです。

朝井リョウさんのラジオをたまに聞いたりするのですが、朝井リョウさん自身はそんな陰湿な感じはあんまりしません笑。

朝井リョウさんは人間の性悪的なところを描き出すのがうまい作家さんなんですね。

美点凝視という言葉があります。
人の良いところを、美しいところを意識的に見ましょうという言葉です。

その言葉の背景として、人は悪いところばかりに目が行くという傾向があります。


朝井リョウさんはそんなもっとも人間的な視点で作品をストレートに描ける人だと思います。
「何者」でも性悪説的な人間の性(さが)を実直に描き出しています。
そのツールとして、現代人を風刺したtwitter就活に対する個々人の価値観や人間性を映し出すことにより、より作品にリアルさがでて、特に私のような若い世代が受け止めにくいことをストレートに伝えてくる作品になっています。


私がすこし思うのは、朝井リョウさん大丈夫かな?ということです。
人の悪いところを見るとそれを自分自身に置き換えて考えたりして、どうしても気持ちが沈んでしまうと思うのです。
抑うつになったりしないかなと少し心配しています笑。

そんな感じで朝井リョウさんという人を感じている私ですが、
映画「何者」に関して思うのは、



あ、これは無視してはいけない作品だなということです。



朝井リョウ作品に触れると、なんかもやもやが残ります。
そのもやもやを嫌だなと思って突き放すと、弱い自分に目をそむけてる気分になるし、
反対に、私自身にもこういうところあると思って、全肯定すると、なんか優等生みたいなって作中の「理香」みたいな嫌味なやつな感じに自分がなっている感じがする。
遠くにも置けないし、近くにも置けない、そんな作品かなと思います。

そんな作品を書く作家さんほかにいないなと思います。
朝井リョウさんの作品自体が私自身に眠っている悪性みたいなところに焦点を当て、その作品自体と向き合うことで精神安定剤みたいな役割をしているというなんかしてやられた感がしますが、そんな作品なんですね。



作中と同世代の方はたぶん自分自身のことをネタにされているような感覚がしていい気持ちはしないかもしれません。

しかし、我々自身があと何年後かにこの作品を触れたときに、ああこんな時もあったなと感じることができたら、たぶんなにかしら人間として成長していることになるんではないかなと思うのであります。

朝井リョウ作品に触れたもやもやはそのままとっておいて、とりあえず向き合ってみる。
そしてこれからまたおんなじことをやってみる。
また何年後かに再読したいと思うような作品でした。

私自身今年で23になって就職して自立したと思ってもまだまだ20代って青臭いんだなとしみじみ感じます。




映画自体は、原作の感じよりもすこしホラーに近づいていて、エンターテインメント感が増しているので、この映画をみて何か感じたい人も、何も考えずに見ようと思っている人も楽しめる思います。(個人的に思ったのが、二階堂ふみのスタイルがやはり良い。今公開しているスクープ!でも思いました)
原作だとより人間の性(さが)に踏み切っているので、ぜひ原作もおすすめです。

長くなりましたがお読みいただきありがとうございました。
次回は読書録でも書こうと思っています。
さいなら

何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)

効率↔︎想像

 

おひさしぶりですね。

 

学生時代に2件だけ書いて三日坊主にもならなかったブログ。

今一度掘り起こしてみようと再開です。

思い立ったが吉日。

 

 

 

私自身のことをとりあえず書くと、環境に大きく変化がございまして、大きく2つありました。以前を知らねーよって話は置いといて、自己紹介も兼ねまして。

 

1つ目は学生から社会人になったこと。

 

2つ目は岡山に越してきたこと。

 

 

1つ目は、まぁありがちな大卒新入社員してます

 社会というのはやはり理不尽の連続で、いままでの生活が合理的かどうかはともかくとして、まぁ以前よりストレスフルな環境に身を置いてます。

 今回の話にもつながりますが、効率とういのは人の心を簡単にないがしろにできてしまうものだなぁと実感しております。現状はただの生意気な新入社員です。

 

2つ目は、配属の関係で岡山に来ました。

実家は新潟で、大学は茨城で、就職は岡山という、うまい具合に田舎を攻めてます。

もちろんアベノミクスの地方創生応援してますよ、えぇぇ!

とまぁ岡山に来ることは就職する前から分かっていて、大学の人間関係やら地元の人間関係やら全てを剥ぎ取りたいと思ったので岡山の配属選びました。

またこの話はおいおいするつもりです。

 

そんな感じで、自宅のトイレでスッキリしながら書いてます。

 

 

 

 

 

 

今回のテーマは、効率と想像です。

 

 

村上春樹さんの「職業としての小説家」という時点的エッセイの中で、「効率」の反対は「想像」だと書いています。

 

高度経済成長期の行け行け時代では良かった効率性というものが、昨今では明らかに弊害を生み出しているのではないかという主張です。

 

著書の中で村上氏は、原発を例に挙げています。

以下引用です。

-------

p212

想像力の対極にあるものの1つが「効率」です。数万人に及ぶ福島の人々を故郷の地から追い立てたのも、元を正せばその「効率」です。

原子力発電は効率の良いエネルギーであり、ゆえに善である」という発想が、その発想から結果的にでっちあげられた「安全神話」という虚構が、このような悲劇的な状況を、回復の効かない惨事をこの国にもたらしたのです。それはまさに我々の想像力の敗北であった、と言っていいかもしれません。

我々はそのような「効率」という、短絡した危険な価値観に対抗できる、自由な思考と発想の軸を、個人に打ち立てなくてはなりません。

                                                              ------------

 

 

飛躍しすぎじゃね?って思われるかもしれませんが、些細な想像力の抑圧や欠如が今回のような事態をもたらしたんではないかと感じられないこともありませんよね?

 

 

最近だと、某大企業の過労死も話題になってます。

功利主義に基づいた企業体質や社会環境の中1人の人間が死を選ぶ結果となりました。

 

私自身、被害者意識の厳罰化コメンテーターは好きじゃないので、企業のやり方や資本主義のシステムやらを批判するつもりはありません。

おそらく、いままでのやり方になっているのは理由があると思うし、それなりの豊かさ、価値を生み出している部分も大きいからです。

しかしながら、現状を考えると、想像力を欠如しているなと思います。

 

私もいま新入社員として仕事をしている中で、おそらく私と同じ世代はこれまでの教育体験の進路決定の中で、自ら選択したつもりになっている人間がほとんどだと思います。

 

 

大学進学も就活もなんとなく周りがやっていて、思考停止状態で周りにくっついてきた人が多くいると思います。

 

 

社会全体が一定水準まで豊かになり社会全体が成熟してくるといわゆる正攻法みたいなものが確立されてきます。

そうすると正攻法に抑圧される形で思考停止状態になり、いつの間にか社会認識が統制されてきてしまう傾向なのかなと思います。

60年代70年代は今より豊かではなく、ある意味整備されてない環境が逃げ道なっていたりして、いまより手段は多くはないものの、普通の人が選びやすい手段は今より多いのかなと思います。

 

われわれの世代はなんかレールが敷かれていて、その通りに並んで歩かなきゃみたいな固定観念がどうしても染み付いてる感がします。

 

 

いまの若い世代が可能な手段は昔よりはるかに多いはずなのに、なぜみんな同じスーツきて同じ時期に就活するんでしょうね。

この昔と今とを比べたパラドックスみたいなものがどうも気になってます。

 

 

あんま調べてないので、具体的数字とか出せないんですけど、なんとなく違和感を感じます。

 

まとまりがないのですが、またこのテーマで書けたらうれしいです。今回は問題提起で終わらせて頂きます。

 

長文失礼しました。

 

 

 

レインツリーの国 有川浩(ネタバレ注意)

レインツリーの国の感想です。

以下紹介文引用です。

きっかけは「わすれられない本」。そのから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内の時間は流れが速い。僕はあっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女にはそう主張せざるを得ない、ある理由があった。

 「塩の街」、「阪急電車」と有川さんの小説を読むのはこれで三作目です。有川さんの小説は人の心の動きを細かくとらえていて、優しい文章なので、読んだあと心が温まりますね。

 

「レインツリーの国」では、主人公の向坂伸行(以下伸)とヒロインのひとみさんが共通の本を介してつながり、恋に落ちていくまでを描いた恋愛小説です。

ネタバレですが、ひとみさんは聴覚障害を持っていて、最初はそれを隠して伸と会います。最初に会って、デートをしますが、ひとみさんの行動がちぐはぐなことに伸は疑問を持ちます。デートの最後にひとみが他人に迷惑をかけてしまう場面で伸はついに彼女に対して怒ってしまいます。しかし、原因が聴覚障害にあり、これまでのちぐはぐな行動もすべて聴覚障害があるが故のことだと知り、これまで伸の生きる世界にはなかった「障害」という価値観にはじめて触れることになります。

二人が障害というハンデを乗り越えて恋に落ちていく様子が赤裸々につづられています。

 

聴覚障害」と「恋愛」というキーワード聞くと、北川悦吏子さんのオレンジデイズ思い浮かべますがやはり書き手が違うと同じ題材でもまた違う見方がある感じました。 オレンジデイズでは櫂くんとさえちゃんが互いに理解し合う過程が感動的ですが、レインツリーの国ではその理解の過程が深掘りされ、細かく描かれいるなと感じました お互いの理解過程で鍵となってくるのがやはり聴覚障害というハンデを抱えたことによる健常者と障害者の価値観の違いです。 少し本文を紹介します。

 

以下本文引用です。

ハンデなんか気にするなっていえるのは、ハンデがない人だけなんです。それも私に迷惑掛けないならハンデがあっても気にしないよって人がほとんどだと私は思います。(99ページ

 

理想の人なんかおれへんよ。単に条件が違う人間がいっぱいおるだけや。その中には人間できている人もできていない人もおんなじようにいっぱいおるよ、ていうかできてる部分とできてへん部分それぞれもっとるんちゃうんかな、みんな。(127ページ

彼女は耳が不自由なぶんだけ、言葉をとても大事にしてるのだ。第一言語として自分たちに残された言葉を。その言葉を使って、真摯に理屈を組み立てる。(184ページ

 

有川さんはあくまでも恋愛小説なので、テーマは障害ではなく恋愛ですよとあとがきで語っています。作中でも、障害者が抱く感情や健常者が抱く感情を素直に扱っていてそのうえで二人が恋愛するために乗り越えなければならない「壁」として障害を扱っているだけであるというスタンスがとても好きです。このような恋愛の「壁」は作中の聴覚障害にかぎらず探せばいっぱいあり(遠距離とか病気とか友達の概念からぬけだせないとか、時には兄妹とか)、その「壁」を乗り越えるかどうかにかかわらず、どう向き合うかに人はさまざま感情を抱くんですね。

有川さんの障害をあくまでノーマルに扱っている部分とてもすきです。作中の恋愛感情の揺れ動きもとても共感できる点がたくさんありました!

 

障害・恋愛といういわゆるテンプレの設定ですが、それでも感動できる言葉・文章がいっぱい詰まった作品だと思います。機会があったらぜひ読んでみてください。

 

長文にお付き合いいただいてありがとうございました。

 

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)

 

 

読書感想 冷たい密室と博士たち 森博嗣(ネタバレ注意)

冷たい密室と博士たち森博嗣著 読書感想です。

 

以下文庫(講談社文庫)の背表紙の紹介です。

 

同僚の 誘いで低温度実験室を訪ねた犀川助教授とお嬢様学生の西之園萌絵。だがその夜、衆人環視かつ密室状態の実験室の中で、男女二名の大学院生が死体となって発見された。被害者は、そして犯人は、どうやって中に入ったのか!?人気の師弟コンビが事件を推理し真相に迫るが…。究極の森ミステリー第二弾

 森博嗣さんのS&M シリーズの第二弾ですね。前作の「すべてがFになる」を読んでから相当時間がたちずっと読もう読もうと思っていた矢先にドラマ化され萎えたりして結局手を付けなかったシリーズでした(ドラマ化されたものに手を出すとミーハー感がして恥ずかしい照れ)。

 

本編は建築学助教授の犀川創平と建築学科の二年生の西之園萌絵の近辺におこるミステリーを二人が謎解きをしていくという流れです。

「謎解き」だと語弊がありますね、ラノべみたいに感じますね。森さんの理路整然とした論理の積み重ねが物語を紐ほどいていく、のほうがしっくりくると思います。

初めは、理系の専門用語が並び、「おもっっ」っと思うかもしれませんが、犀川と萌絵のキャラクターがお互いをひきだしあっていい味を出していたり、犀川の人間じみた主観が読者を引き込む魅力となっていると思います。

物語は今回「密室の殺人事件」がテーマですが、私はそのトリックよりもむしろ殺人の動機に目が向きました。ていうよりトリックの描写が細かいので大枠だけつかんで読みながしました笑(森さん申し訳ございませんm(__)m )

 

前作の「すべてがFになる」ではトリックの美しさに魅了されましたが、今作では動機や犯人の悲劇にむしろ共感を覚えたような気がします。

殺すかどうかは別として、そりゃ殺意を抱くわなみたいな

 

最後に私の好きなシーンが2つあります。

1つ目は殺人が起こる前の極地研での飲み会のシーンです。

お酒をほとんど飲めない犀川が酔って、つまらないギャグを連発するシーン。

つまらないことを言ってることを本人も自覚するもつい言葉に出しちゃうという頭のいい犀川のお茶目なところが好きです。

私もそういうときあります。いっぱいあります犀川さん泣

愛想笑いや無理に返しをしてくれた人に申し訳なくなると同時にめちゃめちゃ感謝しますよね笑

 

2つ目は犀川がトリックの解答を事件関係者のみんなに話すシーンです。

この時、犀川のほかに2人すでにトリックを解き明かした人が紛れていて、その2人がサクラとなってテンポよく謎を解き明かしていくリズムが好きです。

 

このほかにも、犀川と萌絵の関係や国枝助手の婚約をきっかけに犀川の感情の揺れ動きなど細かいところでも楽しめる作品です。

 

是非一読おすすめします!

お付き合いいただいてありがとうございました。

 

 

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)