徒然なる生活

読書感想や日常で感じたことの備忘録です。

レインツリーの国 有川浩(ネタバレ注意)

レインツリーの国の感想です。

以下紹介文引用です。

きっかけは「わすれられない本」。そのから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内の時間は流れが速い。僕はあっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女にはそう主張せざるを得ない、ある理由があった。

 「塩の街」、「阪急電車」と有川さんの小説を読むのはこれで三作目です。有川さんの小説は人の心の動きを細かくとらえていて、優しい文章なので、読んだあと心が温まりますね。

 

「レインツリーの国」では、主人公の向坂伸行(以下伸)とヒロインのひとみさんが共通の本を介してつながり、恋に落ちていくまでを描いた恋愛小説です。

ネタバレですが、ひとみさんは聴覚障害を持っていて、最初はそれを隠して伸と会います。最初に会って、デートをしますが、ひとみさんの行動がちぐはぐなことに伸は疑問を持ちます。デートの最後にひとみが他人に迷惑をかけてしまう場面で伸はついに彼女に対して怒ってしまいます。しかし、原因が聴覚障害にあり、これまでのちぐはぐな行動もすべて聴覚障害があるが故のことだと知り、これまで伸の生きる世界にはなかった「障害」という価値観にはじめて触れることになります。

二人が障害というハンデを乗り越えて恋に落ちていく様子が赤裸々につづられています。

 

聴覚障害」と「恋愛」というキーワード聞くと、北川悦吏子さんのオレンジデイズ思い浮かべますがやはり書き手が違うと同じ題材でもまた違う見方がある感じました。 オレンジデイズでは櫂くんとさえちゃんが互いに理解し合う過程が感動的ですが、レインツリーの国ではその理解の過程が深掘りされ、細かく描かれいるなと感じました お互いの理解過程で鍵となってくるのがやはり聴覚障害というハンデを抱えたことによる健常者と障害者の価値観の違いです。 少し本文を紹介します。

 

以下本文引用です。

ハンデなんか気にするなっていえるのは、ハンデがない人だけなんです。それも私に迷惑掛けないならハンデがあっても気にしないよって人がほとんどだと私は思います。(99ページ

 

理想の人なんかおれへんよ。単に条件が違う人間がいっぱいおるだけや。その中には人間できている人もできていない人もおんなじようにいっぱいおるよ、ていうかできてる部分とできてへん部分それぞれもっとるんちゃうんかな、みんな。(127ページ

彼女は耳が不自由なぶんだけ、言葉をとても大事にしてるのだ。第一言語として自分たちに残された言葉を。その言葉を使って、真摯に理屈を組み立てる。(184ページ

 

有川さんはあくまでも恋愛小説なので、テーマは障害ではなく恋愛ですよとあとがきで語っています。作中でも、障害者が抱く感情や健常者が抱く感情を素直に扱っていてそのうえで二人が恋愛するために乗り越えなければならない「壁」として障害を扱っているだけであるというスタンスがとても好きです。このような恋愛の「壁」は作中の聴覚障害にかぎらず探せばいっぱいあり(遠距離とか病気とか友達の概念からぬけだせないとか、時には兄妹とか)、その「壁」を乗り越えるかどうかにかかわらず、どう向き合うかに人はさまざま感情を抱くんですね。

有川さんの障害をあくまでノーマルに扱っている部分とてもすきです。作中の恋愛感情の揺れ動きもとても共感できる点がたくさんありました!

 

障害・恋愛といういわゆるテンプレの設定ですが、それでも感動できる言葉・文章がいっぱい詰まった作品だと思います。機会があったらぜひ読んでみてください。

 

長文にお付き合いいただいてありがとうございました。

 

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)